MindTechnique

お客さまを怒らせないで。

 

「あ、はい 申し訳ございません。」

そう言いながら、彼女の右手が上にあがった。それは「誰かこの電話応対をかわって下さい」というコールセンターでのサイン。

トラブルがあったのか、担当Aさんでは対応できない内容なのかはわからないけれど、その合図を受け取った先輩社員は、すぐさま担当Aさんに駆け寄って、頭につけたヘッドセットと一緒に電話応対を引き継ぐと「お客さま、お電話かわりました。私◯◯がお受けします。」と和やかな対応をつづける。

すると電話の向こうのお客さまも安心したのか、コールセンターに響く会話は、穏やかなものになった。

 

やがて「お電話ありがとうございました。」の声が聞こえ、お客さまとの会話が無事に終わったんだな、とホッとしたのも束の間、「お客さま、怒ってらしたわよ。」と、応対をかわってくれた先輩社員から最初に応対した担当Aさんへ、ダメだしが告げられる。

 

だからって、担当Aさんも負けてはない。「私、間違ってませんけど。」的な反論がかえってくる。近くでみている私は『おいおい、でもあーた、実際にお客さまを怒らせてしまってるよね。』と、飲み会ならツッコむところだけど、今はまだ日も高い神聖なるコールセンター。

 

こんな時は冷静に、自動録音されているお客さまとの会話を再生しながら、「なぜ、お客さまを怒らせてしまったのか?」を、点検をしていくのです。

 

お客さまへの気遣いのはずが。

 

そして驚くことに、担当Aさんに間違いはありませんでした。商品の案内に落ち度があったわけでも、判断に誤りがあったわけでもなかったのです。

 

ではなぜ、お客さまは怒ってしまったのでしょうか?

お客さまとの会話を聞き返していくと、そのポイントはわかるのです。それはまるで火事の時、出火の原因である火の元をみつける作業にも似ています。

 

お客さまを怒らせてしまった原因、それは担当Aさんが発した、ある一つの問いかけの言葉がきっかけとなり、お客さまの機嫌が悪くなっていったのです。それは何という言葉だと思いますか?

 

答えは「大丈夫ですか?」という問いかけでした。

 

会話の内容は、お客さまの体調が悪くなり、窓口に行けなくなったことをお知らせするご連絡だっだのです。

そのことを知った担当Aさんは、お客さまを気遣うつもりで「大丈夫ですか?」とお声かけしたのですが、残念ながらその声かけは、「上から」言っているようにお客さまには聞こえてしまっているのです。

 

イントネーションは学校で学ばない。

ではなぜ、「上から」言っているように、お客さまに聞こえてしまったのでしょうか?もちろん担当Aさんに、そのような態度はありません。どちらかというと普段は周りの人たちに可愛がられるタイプです。

なのに怒らせてしまったのは、意外にも「イントネーション」でした。彼女のイントネーションは標準からズレていて、「上から」言っているようにお客さまには聞こえてしまったのです。

『たかが、イントネーションぐらいで!』と思われるかもしれません。ですが電話でのやりとりでは、実際に顔をみて、表情を読みとっているわけではありません。なので、このように気持ちの行き違いが起きやすくなってしまいます。

 

そして「大丈夫」という表現は、とても曖昧な表現なうえ、イントネーションをかえてしまうと、意味合いまで『ごっそり』かわってしまいます。

 

試してみましょう。たとえば、大切な人が体調を崩しているとします。その時あなたは「大丈夫?」と、どう言いますか?。そうですよね、心配そうに言いますよね。では別のシーンにいきますね。

今までに何度も間違えてるけど今日こそ本当にあってるの?と確認する時の「大丈夫?」はどうですか?こちらだと、ちょっと上から目線のイントネーションになっていませんか?

このように使う言葉は同じでも、イントネーションの違いだけで、すっかり意味合いがかわってしまいます。だから相手を怒らせてしまうんですね。

難しいのは、イントネーションのズレを自分では気づけないということです。

『外国人じゃないんだから、日本語のイントネーションくらいわかるわよ!』と思われるかもしれませんが、イントネーションは、生まれた地域の言葉のトーン、いわゆる「訛り(なまり)」がベースになっています。なので土地が違う人が聞くと、『なんかカン触るんだけど』なんてことも、よくあります。

 

そういう私もイントネーションには長く苦労しました。生まれた土地は大阪で、育ったの土地は博多。なのに家に帰れば両親は鹿児島県の出身。育った環境のせいなのか、私のイントネーションやアクセントはズレていて、多くの人に指摘を受け、教わりながら覚えていきました。

 

話を戻しますね。お客さまを怒らせてしまった担当Aさんですが、彼女もやはり訛り強い出身地のイントネーションに引きずられていたのです。本人にも多少の自覚があり、「なぜかお客さまを怒らせてしまう」という意識はあったようです。でもそれが、イントネーションとまでは表いなかったようです。でも、ここで原因がわかれば安心です。

少し時間は必要ですが、イントネーションは練習で身につけることができます。

 

もしあなたが辛口ではないのに、「なぜか人を怒らせてしまう」と感じていたら、それはイントネーションのせいかもしれません。

 

これから出会う人のためにも是非、どこかで点検してみみて下さいね。